Agenda de tous les jours

残すためではなく気づくため。自身の省察のためのブログです。

理論と実践と・・・

今週の土曜日にある研究会で検討する本(佐貫浩・世取山洋介編『新自由主義教育改革―その理論と実践と対抗軸』大月書店,2008年)を読んでいる。
その本に収録されている,木附千晶さんの「教師と子どもの関係の変容―心理カウンセラーの視点から」という論文は,極めて重要な視点を提起していると感じた。
一般的に,教育の実践者による論考は,対国家,対教育政策という枠組から抜け出せず,理論的というよりは,やはり運動論的なものが多いといわれる(もちろんそのこと自体を否定するつもりはないが)。
教育実践の現場がどれほど混迷した状況にあるかは,やはりその「当事者」が一番よく知っている。
だからこそ,実践から理論を紡ぎ出すような研究が求められているのだと思うし,そうした実践と理論を取り結ぶような研究が,研究者自身に求められているのだと思う。
ただ,その際のアプローチとして重要なのは,「現実」というものをどう見るか,あるいはどう読み解くかなのだと思う。
生の人間の声をヒアリングしたり行動を観察したりする,数として表れる統計データを読み解く,あるいは歴史的な史料から今日にフィ―ドバックできることは何なのか,海外の事例から日本特有の教育現象は何のかを読み解く。
他にもいろいろあるだろう。アプローチは多種多様だ。
教育学が社会科学であるかぎり,できるだけ客観的・自制的に「現実」における因果関係を分析するものであってしかるべきなのだろう。
しかし教育学の場合,さらにもう一歩先に求められるものがあるはずだと思っている。
上記の論文では,心理カウンセラーという実践者の視点から今日の「教育現実」が描かれているだけではなく,その「現実」を理論に結びつけながら考察され,今日の状況に対する問題提起がなされている。
好みはそれぞれあるかもしれないが,個人的には,現実の「教育」を規定しうる教育政策・教育制度を扱う「教育行政学」を専攻する者にとって,多くの示唆を与えてくれる,実践者による良質な論文だと感じた。