Agenda de tous les jours

残すためではなく気づくため。自身の省察のためのブログです。

パリ20区,僕たちのクラス

8月6日まで神保町の岩波ホールで上映されていた『パリ20区,僕たちのクラス』という映画を観た。
フランスの中学校を舞台にしたドキュメンタリータッチの映画で,会場で配られたパンフレットによると,出演者もパリ20区のフランソワーズ・ドルト中学校で学ぶ,演技経験のない24人の生徒・教師だという。
今年のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞したこともあり,通っている某語学学校でも大変話題になっていた。
また,自分がフランスの教育について研究しているということもあってか,いろんな人から見たかと聞かれ,これは見に行かないとと思っていた。
パリ20区というところは移民の多く住む貧困区で,映画にも映しだされていたように,本当にいろんな人種の生徒がいて,その分学校の運営も一筋縄ではいかないようなところである。
映画自体は,ある国語教師が担任を受け持つひとつのクラスを中心に,普段の授業での生徒と教師とのやり取りや,反抗したり騒いだりする生徒達を必死に押さえつけようとする教師達の葛藤など,いたってよくありそうな光景を描いている。
だけどやはり,「授業運営の困難さ→生徒の非行や荒れ,成績不良→教師による懲罰→さらなる生徒の非行や荒れ,成績不良…」といった負のスパイラルや,フランス語を話せないアフリカ系の親をもつ生徒や不法入国で逮捕される中国系の親をもつ生徒といった多様な生徒の背景など,本当に考えさせられることの多い映画だった。
生徒の側は黒人や白人,アフリカ系やアジア系といった多様な生徒がいる一方,教師の側はほとんどが白人で,どことなく生徒を見下しているような権威主義的な教師という設定。
ノンフィクションかと思わせるほどリアルにフランスの学校を描いているように思えた。
いつもは反抗的で暴力的なストリート系の少年が,教師にみんなの前で褒められたことでのぞかせた照れた笑顔にほっとさせられたり,フランス語の授業で先生はいつも白人の名前ばっかり持ち出すのはおかしいと言える生徒がいることに日本ではありえないなぁと思わせられたり,さらには,学期末に一年間で学んだことをそれぞれが発表しあう場面で,学校の授業はどれも退屈だったけどしいて学んでおもしろかったことをあげるとすれば,プラトンの『国家』を読んだことだという生徒がいて先生の表情が変わった瞬間だったりと,映画のストーリーは淡々とすぎゆくのに奥深いメッセージ性があり,しかもそうした場面場面の解釈は見る側にゆだねるようなつくりになっていた。
みんなが帰った後,ある女子生徒が1年間どの授業にもついていけずみんなみたいに学んだことがないと,こっそり教師に打ち明けに来るシーンなどは,非常にリアリティがあったと思う。
フランスは徹底した能力主義で,日本のように学齢主義をとらず課程主義を採用するので,どうにか留年を免れたようなレベルの「成績不良者」は,「職業準備コース」というコースに振り分けられ,早い段階でエリートコースから除外されるシステムになっている。
その女子生徒は勉強について行けず,職業準備コースに行くのは嫌だと担任教師に打ち明けに来たのだった。
そうしたことも含め,本当にいろいろ考えさせられる作品ではあったけど,大人ではないけど非常に大人っぽい,現代のリアルな中学生たちの姿が描かれている,いい映画だったと思う。